腎臓病は自覚症状なく進行し、致命的な結果を呈する疾患 です。腎機能は段階的に悪くなって腎不全に至り、最終的 には日常生活を送るために透析もしくは腎移植が必要と なってしまいます。発展途上国では、高額な医療費と医療 アクセスの問題で、腎不全患者の 5-10%しか透析・腎移植 を受けられず、残りは治療を受けられないまま死を迎えて います。慢性腎臓病に罹患する患者は多いですが、腎機能 を改善させる治療法はなく、予防に徹することが末期腎不 全を防ぐ唯一の方法となります。慢性腎臓病を早期に発見 して適切な治療を行うことで、腎機能のさらなる悪化を防 ぎ、透析や腎移植が必要となる時期を遅らせ、場合によっ ては透析や腎移植の必要なく過ごすことができるように なります。
どのように腎臓病を予防すればよいでしょうか?
決して腎臓を無視してはいけません。腎臓病の予防・治療 にとって何が重要なのか、2つの分類に分けて論じていき ましょう。
- 腎臓病に罹患していない人
- 2.すでに罹患している人
喫煙は動脈硬化の原因となります。 動脈硬化が生じると
腎臓への血流が低下し、 結果として腎機能も低下してし
まいます。
- 市販薬は注意して内服する
日常生活で市販の鎮痛薬を使いすぎてはいけません。 イ
ブプロフェンのような非ステロイド性抗炎症薬
(NSAIDs) は腎臓にダメージを与え、連用すると腎不全
の原因となります。 腎不全を予防したいのであれば、 痛
みをコントロールする別の方法を主治医とよく相談し
て下さい。
- 水をたくさん飲む
十分な水 (約 3L/日) を飲むことで多くの薄い尿が作
られ、 体の老廃物を十分に排泄することができて腎結石
も予防することができます。
- 毎年腎臓の健康診断を受ける
腎臓病は自覚症状なく進行することから、 進行した状態
になるまで気づきません。。 腎臓病を早期診断してさら
なる進行を防ぐためには、 定期的な健診を受けることが
最も効果的な方法ですが、 残念ながら行わない人が多い
です。糖尿病・高血圧・肥満・腎臓病の家族歴のある人
は慢性腎臓病のリスクが高く、 年1回の健診は必須でで
す。 もし自分の腎臓 (そして自分自身) を守りたいので あれば、40 歳を越えたら必ず腎臓の定期健診を受けな ければなりません。腎臓病を早期に診断するためには、 血圧測定・尿検査・血中クレアチニン測定を毎年行うの が最も簡単な方法です。
すでに腎臓病を罹患している人
- 腎臓病の症状に注意し、早期診断を心がける
腎臓病の症状に常に気を配ることが大切です。 腎臓病の 一般的な症状として、 顔や足のむくみ、 食欲低下、 嘔気、 嘔吐、肌の蒼白、衰弱、頻尿、血尿、蛋白尿などがあり ます。 このような症状を自覚したら、 主治医に相談して 腎臓の検査を行いましょう。
- 糖尿病患者における腎臓病予防
糖尿病は慢性腎臓病の原因となるため、 全ての糖尿病患 者は腎臓病予防に注意を払わなければなりません。 新た に末期腎不全を呈した患者のうち約 45%は糖尿病性腎 症でと言われています。 糖尿病性腎症を早期診断するに は、血圧測定および試験紙法による尿蛋白の確認を 3 か月に1回行うのが簡単で効果的な方法です。 より早期 に診断するには微量アルブミン尿のチェックが必要で、 年1回は行うべきとされています。 腎機能評価のために
血清クレアチニン (および eGFR) も少なくとも年 1 回
測定する必要があります。
高血圧、尿蛋白、浮腫、頻繁な低血糖、インスリン必要
量の低下、 網膜疾患 (糖尿病性網膜症) は、 糖尿病が腎
臓に悪影響を及ぼしている重要な証拠であす。 これらの
危険信号に気を配り、主治医に相談して下さい。
糖尿病性腎症を予防するために、 血糖を厳格にコントロ
ールし、血圧は130/80mmHg以下にコントロールし (降
圧薬としてはACE阻害薬やARBが腎症予防に適している
とされる) 、 食事で蛋白制限を心がけ、 脂質もコントロ
ールする必要があります。
- 高血圧患者における腎臓病予防
高血圧は慢性腎臓病の原因として 2 番目に多いですが
予防可能であす。 高血圧患者のほとんどは自覚症状がな
いため、 多くの患者は定期的な治療を受けないか、 治療
を中止してしまいます。 降圧薬を飲むのは不快だとの理
由で治療をやめてしまう患者もいますが、 これは危険で
す。 長期間にわたり高血圧がコントロールされない状況
が続くと、慢性腎臓病、心臓発作、脳梗塞などの重大疾
患につながる可能性があります。
腎臓病を予防するために、 全ての高血圧患者は毎日降圧
薬を飲み、 毎日血圧をチェックし、 塩分制限を徹底して
下さい。。治療目標は、血圧を130/80mmHg以下に保つ
ことです。 腎臓病の早期診断のために全ての高血圧患者
は尿検査 ・ 血清クレアチニン測定を毎年行う必要があり
ます。
- 慢性腎臓病患者におけるさらなる進行予防
慢性腎臓病は治癒することがない疾患です。 しかし、 早
期に診断し、食事制限、定期的なフォロー、適切な治療
を行うことでその進行を遅らせ、 透析や腎移植が必要と
なるまでの時間を長くすることができます。
慢性腎臓病の進行を防ぐために最も効果的な方法は、 24
時間血圧を適切にコントロールすることです。血圧は
130/80mmHg 以下に保つことが強く推奨されています。
降圧目標をしっかり達成するためには、 家庭血圧を定期
的に測定し、 血圧表をつけることが最もよい方法となり
ます。 それにより医師は適切に降圧薬を調整することが
できます。
慢性腎臓病の患者において、低血圧、脱水、尿路閉塞、
敗血症、 腎毒性のある薬物など腎機能を悪化させうる要
素はきちんと把握しておく必要があります。 これらの要
素に適切に対処すれば、 たとえ慢性腎臓病患者であって
も腎臓の状態を改善させることができるからです。
す。 尿路感染をきたした小児は、 必ずその背景疾患も含
めて検証することが必要です。
- 成人の繰り返す尿路感染
成人で尿路感染を繰り返したり、 治療反応性が悪かった
りする場合、 背景疾患を同定する必要があります。 尿路
閉塞や腎結石などの背景疾患は、 放置すると腎臓にダメ
ージを与える危険があるため、 早期診断・治療が大切で
す。
- 尿路結石および前立腺肥大症への適切な対処
尿路結石を持つ人のほとんどは自覚症状がなく、 そのた
め結石の存在を認識せずに治療機会を逸しています。 ま
た、 前立腺肥大症を持つ高齢男性の多くは、 症状があっ
ても長期間無視しています。 尿路結石や前立腺肥大症は
放置すると腎臓にダメージを与える可能性があります。
適切にフォローし、 適時に治療することで腎臓を守るこ
とができます。
- 若年での高血圧を無視してはいけない
若年期の高血圧は稀であるため、 背景にある原因疾患を
注意深く調べることが必要です。 腎臓病は若年者の著明
な高血圧の原因として最も多くなっています。 高血圧の
若年者は、 背景疾患を適切に評価することが腎臓病の診
断および腎臓を守るための適切な治療を行う上で必須
となります。
- 急性腎障害の早期治療
急性腎障害の原因として、 下痢、 嘔吐、 熱帯熱マラリア、
低血圧、敗血症、薬剤 (ACE阻害薬、NSAIDs) などが挙
げられます。 これらの原因に早期かつ適切に対処するこ
とで、腎不全を防ぐことができます。
- .薬剤は注意して使用する
多くの市販薬 (特に鎮痛薬) は腎臓にダメージを与え
る可能性があり、 特に高齢者は要注意しなければいけま
せん。 これらの薬剤は広く宣伝されていますが、 危険な
合併症が起こりうることはめったに伝えられていませ
ん。 頭痛や体の痛みに対して、 市販の鎮痛薬を使用する
ことは避けるべきであり、 自分で判断して薬を飲んだり、
不必要な薬を飲んだりするのも避けるべきです。 医師の
指示のもとで内服する薬剤は安全である。 アーユルヴェ
ーダ (インド医学) や漢方などの薬剤やサプリメントは
害がないという考えは間違っています。 例えばアーユル
ヴェーダの薬剤に含まれる重金属は腎臓にダメージを
与える可能性があるからです。