13 透析

透析は、もはや腎臓が機能しなくなった時に、老廃物や過 剰な水分を身体から除去するための人工的な手段です。つ まり、重篤な腎不全の患者にとって、透析は命を守るため の腎代替療法なのです。

透析は、重篤な腎不全患者にとって、どのような補助にな るのですか?

透析は、機能不全となった腎臓の以下の機能を行うことに よって、身体を補助します。
すなわち:

  • クレアチニン・ 尿素などの老廃物を除去することによっ て血液を浄化する
  • 適切な体液量を維持するために過剰な水分を除去する
  • ナトリウムやカリウムや重炭酸などの電解質異常を補 正する

しかしながら、透析は「エリスロポエチン産生によって適 正なヘモグロビン濃度を維持する」、「骨を健常な状態を 維持する」といったような本来の腎臓の働きについては代 替することはできません。

慢性腎臓病は治癒しないが、早期治療によってもっとも 効果が見込める

どのような状態になったら透析が必要になりますか?

腎機能が85~90%減少した時(末期腎不全)、腎臓はもは や老廃物や体液を十分に除去することができず、嘔気、嘔 吐、倦怠感、浮腫、息切れなどの症状が出現します。この 段階の腎臓病では、薬物療法による効果は不十分であり、 患者は透析が必要な状態となります。慢性腎臓病の患者の 多くは、血液検査で血清クレアチニンが 8.0mg/dl 以上と なった段階で通常透析を必要とします。

透析によって慢性腎臓病は治りますか?

いいえ。慢性腎臓病は今のところ治らない病気です。した がって、末期腎臓病の患者は、腎移植を選択しない限り透 析療法を生涯必要とします。しかし、急性腎不全の患者で は、腎臓が回復するまでの短期間しか透析治療を必要とし ないことがあります。

透析にはどのような種類があるのですか?

透析には主に血液透析と腹膜透析という2つの方法があ ります。

血液透析: 血液透析は末期腎不全患者を治療する最も一般 的な方法で、人工腎臓・透析機器を用いて血液から老廃物 や過剰な水分を除去する方法である。

慢性腎臓病において、原因疾患の治療は慢性腎臓病の進 行を遅らせる

腹膜透析: 腹膜透析も末期腎臓病に対する治療として効果 的な方法である。腹膜透析では、カテーテルと呼ばれる柔 らかいチューブを腹部に挿入する。そして、老廃物や過剰 な水分を体内から除去するために、カテーテルを介して腹 腔内に透析液を注入する。通常、この腹膜透析は機械を用 いず家庭で行う。

末期腎臓病患者において、透析療法の選択はどのような要 素で決まりますか?

血液透析・腹膜透析の両者とも末期腎臓病患者にとって有 効な手段です。ただ、どちらか単独の方法がすべての患者 において最善というわけではありません。血液透析を選択 するか腹膜透析を選択するかについては、それぞれの透析 療法の長所・短所を考えたうえで、患者本人、その家族、 腎臓内科医で協議して決定します。この決定に関わる重要 な要素は、治療にかかる費用、年齢、合併している病気、 血液透析施設からの距離、教育の程度、主治医の考え、患 者の嗜好や生活様式などです。インドにおいては、費用が 少なく施行しやすいという理由で、大多数の患者は血液透 析が選択しています。

透析患者は厳しく食事制限をする必要がありますか?

はい。 透析患者にとって一般的に推奨される食事は、 塩分、

カリウム、リン、水分が制限されたものです。透析患者は これらの食事に関する注意事項に従う必要がありますが、 慢性腎臓病の過程において、透析療法を開始すると食事制 限は軽減されます。多くの透析患者は十分なカロリー、水 溶性ビタミン、ミネラルとともに高蛋白食を勧められます。

慢性腎臓病は治癒しないが、早期治療によってもっとも 効果が見込める

ドライウェイトとは何ですか?

透析患者にとって「ドライウェイト」という言葉は日常的 に使用されますが、これは透析によってすべての過剰な水 分が除去された時の体重を意味します。「ドライウェイト」 の値は、実際の患者の体重変化に応じて時々調整しなけれ ばいけません。

血液透析療法

血液透析療法は末期腎不全の治療法のなかで、最も一般的 に行われている方法です。血液透析療法では、血液透析装 置と透析膜(ダイアライザー)を用いて、血液を浄化します。

どの様にして血液透析は行われるのですか?

多くの血液透析療法は、医師や看護師、臨床工学技士の管 理のもと行われます。

  • 血液透析装置は血液ポンプを介して体内から 1 分間に 300mlの血液を取り出し、 細いストローの側面に大量の 小さな穴があいたような構造を持つ中空糸膜で構成された透析膜(ダイアライザー)へ送り込む。血液透析装 置の中で血液が固まるのを防ぐ目的で、ヘパリンとい う薬剤を血液回路に持続的に注入する。
慢性腎臓病において、原因疾患の治療は慢性腎臓病の進 行を遅らせる

  • 人工腎臓とも呼ばれる透析膜(ダイアライザー)は、血液 中の余分な水分や老廃物を除去するために特別に作ら れた半透膜である。透析膜(ダイアライザー)は、血液透 析装置によって調整された透析液と呼ばれる特別な溶 液を通じて血液を浄化していく。
  • 透析膜(ダイアライザー)により浄化された血液は、血液 ポンプを介して再び体内へ戻される。
  • 血液透析療法は通常週3 日行い、1 回の血液透析療法で はおおよそ4 時間の治療が行われる。

血液透析療法ではどのようにして血液が体内から取り出 され、ふたたび体内へ戻されるのですか?

大量の血液を透析機へ供給するために、主に3 種類、中心 静脈カテーテル、内シャント、人工血管グラフトのブラ ッドアクセスが用いられます。

1. 中心静脈カテーテル

  • 緊急に血液透析が必要な場合は、中心静脈カテーテルの 挿入が最も一般的で、かつ有効な方法となる。
慢性腎臓病は治癒しないが、早期治療によってもっとも 効果が見込める

Kidney in Japanese
  • 中心静脈カテーテルは、内シャント増設や人工血管グラ フト作成まで、一時的に使用される場合に適している。
  • 血液透析療法を行うために、中心静脈カテーテルが頸部 の内頸静脈、胸部の鎖骨下静脈、鼠径部付近の大腿静脈 と呼ばれる大きな静脈のいずれかに挿入される。このカ テーテルを使って、一分間に300ml 以上の血液を体外に 取り出す。
  • カテーテルは 2 本の孔をもった柔軟で細長い筒状の構 造をしている。血液は2 つの孔のうちの一つの孔を通し て取り出され、血液透析装置の回路に入り、もう一つの 孔を介して体内に戻される。

  • カテーテルは感染症や血液が固まって詰まってしまう 危険性があるため、通常は一時的な使用に限られる。
  • カテーテルには設置方法によって、2 種類に分けられま す。皮下トンネルを作る方法では数か月間と比較的長期 間の留置が可能となりる。一方、皮下トンネルを作らず 皮膚から直接血管内に挿入する方法は、数週間程度の一 時的な留置に用いられる。

2. 動静脈内シャント

Kidney in Japanese

動静脈内シャントは長期 に使用でき、つまりにくく 感染しにくいため、最も一 般的で維持透析に適して いるバスキュラ-・アクセ スである。

  • 内シャントの作成は、動 脈と静脈を外科的につな いで行い、通常、前腕の手 首に近い部位(橈骨動脈と 橈側皮静脈をつなぐ)で作 成される。
  • 動脈から静脈に、圧の高い多量の血液が流れ込む。数 週間から数ヶ月後、静脈は拡張し十分な流量を有するようになる。この過程を「発達」と言う。内シャント は発達に時間がかかるため、作成後すぐに血液透析に 利用することはできない。

  • 血液透析を行うために、2 本の太い針を内シャントに刺 す。1 本は血液を体から抜くために、もう1 本はキレイ になった血液を体に戻すために使用する。
  • 内シャントはよい管理を行うと何年も使用することが できる。内シャントを作成した側の腕(シャント肢)でも、 通常の日常生活は容易にこなすことができる。

なぜ内シャントは格別な注意を払う必要があるのでしょ うか?

  • 定期的かつ十分な血液透析によって、末期 CKD 患者の 生命は維持されている。内シャントから十分な量の血 流を得られることは、十分な血液透析を行うのに必要 不可欠であり、それゆえ内シャントは維持透析患者に とって「生命線」と言える。内シャントへ格別な注意 を払うことによって、長期にわたって十分な血流を確 保することができるようになる。
  • 圧の高い多量の血液が内シャントの静脈へ流れている。 拡張した静脈への不慮の受傷は大量出血を引き起こし、 突然の大量出血によって生命の危機に陥る。それゆえ、内シャントの静脈を保護するために格別に注意を払う 必要がある。
慢性腎臓病において、原因疾患の治療は慢性腎臓病の進 行を遅らせる

内シャントへの注意

内シャントに対する適切かつ定期的な管理と保護によっ て、長期にわたって十分な血流を確保することができるよ うになる。内シャントを健全に保ち、長期にわたって利用 できるようにするための重要な注意点として以下のよう なものがあげられます:

感染の予防

  • シャント肢を毎日および血液透析を行う前に洗うこと で、内シャント部位を常に清潔に保って下さい。

内シャントの保護

  • 内シャントは血液透析のみに使用すること。シャント 肢で注射や採血、血圧測定を行ってはいけない。
  • 内シャントの損傷に注意する。シャント肢にアクセサ リーをつけない、きつい服を着ない、腕時計をしない ようにする。内シャントへの不慮の受傷は大量出血を 引き起こし、生命の危機に陥りかねない。止血するた めには、シャント肢と逆の手、もしくはきつい包帯で 出血部位を迅速かつ強く圧迫する。止血を得た後、か かりつけ医を受診すること。止血を試みずに病院に駆 けつけるのは賢明でなく危険である。
慢性腎臓病は治癒しないが、早期治療によってもっとも 効果が見込める

  • シャント肢で重い物を持たず、シャント肢に高い圧が かかるのを防ぐ。シャント肢を下にして寝ないように 気をつける。

内シャントの適切な機能の確保

  • 振動(スリルと言います)を触れることで内シャントの 血流を1 日3 回(毎食前)定期的に確認すること。もし振 動が消えていれば、 速やかにかかりつけ医を受診するか、 透析室のスタッフに連絡を取ること。内シャントの閉塞 を早期に発見し、血栓の溶解もしくは除去治療を適切な タイミングで行えれば、内シャントを再利用できる可能 性がある。
  • 低血圧は内シャント閉塞のリスクであるため、 低血圧に 対する予防が必要である。

定期的な運動

  • 内シャントの定期的な運動は、内シャントの発達を促す。 血液透析開始後であっても、シャント肢の定期的な運動 によって内シャントは強くなる。

3. 人工血管使用皮下動静脈瘻(グラフト)

  • 人工血管使用皮下動静脈瘻(以下グラフト)は、内シ ャントに見合う良好な静脈がない、もしくは作製した内シャントが使用できない状態にある患者で用いられ る、長期透析アクセスの代替手段である。
慢性腎臓病において、原因疾患の治療は慢性腎臓病の進 行を遅らせる

  • グラフト作製においては、皮下に埋め込んだ短い人工 の軟らかいチューブを用いて、動脈を手術で静脈と連 結する。透析の際は、針をこのグラフトに刺す。
  • 内シャントに比して、グラフトは血液凝固や感染の危 険性が高く、長持ちしないことが多い。

血液透析装置はどのような役割を果たしているのしょう か?

血液透析装置の重要な機能は以下の通りです:

  • 浄化のため、体内からダイアライザへ血流を汲み上げて 監視する。
  • 血液浄化のため、ダイアライザへと送られる特別な透析 用溶液(透析液)を調整する。血液透析装置は、透析液 の電解質濃度、 温度、量および圧を正確に調整・ 監視し、 患者に応じて変更する。透析液は体内からダイアライザ を通して不要な老廃物や余剰な水を取り除く。
  • 患者の安全のため、ダイアライザからの血液漏出や血液 回路内の空気を検知するなど様々な安全装置を備えて いる。
  • 血液透析装置はコンピュータ化されていて、前面のスク リーンに様々なパラメータを表示し、 各々違うアラームを鳴らすことで、便利に、正確に、かつ安全に透析治療 を行い、監視することができる。
慢性腎臓病は治癒しないが、早期治療によってもっとも 効果が見込める

ダイアライザの構造と、その血液浄化の仕組みは?
ダイアライザの構造

Kidney in Japanese

  • 血液透析にお いて、ダイアライ ザ(人工腎臓)は 血液浄化が行わ れる濾過器であ る。
  • ダイアライザ は長さ約 20cm、 幅約5cm で、合成 半透膜から成る 数千のチューブ のような中空フ ァイバーを含んだ透明なプラスチック円筒である。
  • これらの中空ファイバーは各々円筒の上下端で繋がり、 血液コンパートメント」を形成する。血液は一方の血液 ポートから中空ファイバーの「血液コンパートメント」 に入り、浄化された後もう一方から出ていく。

  • 液ポートから中空ファイバーの「血液コンパートメント」 に入り、浄化された後もう一方から出ていく。
  • 透析液はダイアライザの一方から入り、ファイバーの外 側(透析液コンパートメント)を流れ、もう一方から出 ていく。

ダイアライザでの血液浄化

Kidney in Japanese
  • 血液透析では、装置に汲み上げられた血液がダイアライ ザの一方から入り、数千の毛細管のような中空ファイバ ーに分配される。透析液はダイアライザのもう一方から 入り、「透析液コンパートメント」であるファイバー外 側を流れる。
  • 血液透析の間、ダイアライザでは 300ml/分の血液と 600ml/分の透析液が逆方向へ流れ続ける。血液と透析液 のコンパートメントを隔てる中空ファイバーの半透膜 は、血液から透析液コンパートメントへ老廃物や余剰な 水を移動させる。
  • 血液は、浄化された後ダイアライザのもう一方から出て いく。体内から除去された有毒物質や余剰な水を含む透 析液は、ダイアライザの血液が流入する側から出ていく。
  • 血液透析を受けると、体内の全血液が約12 回浄化され る。4 時間の血液透析終了時には、血中尿素窒素やクレ アチニンは十分に低下し、余剰な水は除去され、電解質 異常は補正される。

血液透析で透析液とは何ですか?またどんな働きをして いるのですか?

  • 透析液は、血液透析に用いられる、血液から老廃物や余 分な水分を取り除くために調整された液体である。
  • 標準的な透析液の組成は正常な人の体液とほぼ同じで ある。しかし、個人の状態に合わせて調整をすることが できる
  • 透析液は、透析機のなかで濃度の高い透析液を、度の高 い水でおよそ30 倍に希釈して用いられる
慢性腎臓病において、原因疾患の治療は慢性腎臓病の進 行を遅らせる
  • 高濃度の透析液は商業化されており、 電解質やミネラル 分、重炭酸を濃い濃度で容器に入れて売られている
  • 砂濾過器、活性炭濾過器、軟水化装置、逆浸透膜装置、 脱イオン化装置、 紫外線殺菌濾過装置を続けて用いるこ とにより、水を純化してから透析液に用いられる。
  • 上記の過程でごみや浮遊物、化学物質、ミネラル分、細 菌、エンドトキシンが取り除かれる。
  • 透析患者は透析1 回あたり150L の透析液にさらされこ とになるので、 安全な透析には純度の高い水が必要とな る。
  • 透析患者が汚染された水にさらされないように、 慎重に 水の純化を行い、水質を常に確認し純度を保つことが必 要である。

どこで透析を行うのでしょうか?

血液透析は、普通は病院や透析センターで行われます。医 師の指導の下、訓練を受けたスタッフが行っています。一 部には在宅血液透析を行っている患者もいます。在宅透析 をするためには、全身状態が安定しており、十分な訓練を 受ける必要があります。また、家族の助けが期待でき、家 に十分なスペースを確保でき、金銭的な余裕があることも 必要です。

慢性腎臓病は治癒しないが、早期治療によってもっとも 効果が見込める

血液透析は痛いですか?透析中患者は何をするのです か?

透析を行うための針を刺す時の痛みを除けば、透析中に痛 みを伴うことはありません。維持透析患者は透析をするた めに病院に通い、透析が終われば家に帰ります。患者の多 くは透析中の約4 時間に眠ったり、本を読んだり、音楽を 聴いたり、テレビを観たりなどしながらゆっくり過ごしま す。透析中に軽食を食べたり、飲み物を飲んだりをするこ ともできます。

血液透析中によく問題になることはな何ですか?

血圧の低下や嘔気/嘔吐、筋の痙攣、倦怠感、頭痛などが みられます。

血液透析の良い点と悪い点はなんですか?
血液透析の良い点:

  • 訓練を受けた看護師や技師が行うので安全であり、スト レスも少なく快適である。
  • 腹膜透析に比較して速く効率よく透析をできるので、透 析時間がかなり短い。
  • 透析施設には同じような問題を抱えた患者と交流でき る場所がある。そのような交流の場によりストレスも軽 減される。また患者会などにも参加できる。
慢性腎臓病において、原因疾患の治療は慢性腎臓病の進 行を遅らせる

  • 血液透析は週3 回のみであり、 自由な時間を確保できる。
  • 感染のリスクが少ない。
  • ほとんどの施設では、血液透析の方が腹膜透析よりも安 く行われている。

血液透析の悪い点

  • 特に透析センターが遠方にある場合は、 定期的に通うの は不便で時間がかかる。
  • 血液透析は確立したスケジュールを組まれており、 患者 は透析を念頭に入れて全ての予定を考えなければなら ない。
  • 穿刺は苦痛を伴う。
  • 食事内容に規制があり、水分、塩分、カリウムやリンの 多い食物摂取を制限する必要がある。
  • 肝炎感染のリスクが高まる。

血液透析患者が守らねばならないこと

  • 維持透析患者は週 3 回の血液透析を受けなければなら ない。規則的な透析はその後の予後に重要であり、不規 則あるいは不十分な透析は有害、時に致命的にもなりう る。
慢性腎臓病は治癒しないが、早期治療によってもっとも 効果が見込める

  • 水分、 塩分の制限は透析間の体重増加をコントロールす るのに重要である。カリウムやリンの多い食事を避けて、たんぱく質を摂取することが重要である。
  • 栄養障害は透析患者でしばしばみられ、 予後を悪くする。 不十分な蛋白質摂取や透析中の蛋白喪失が栄養障害を 引き起こす。従って、高蛋白食、カロリー摂取増加が透 析患者には勧められる。
  • 維持透析患者はビタミンB、 ビタミンCを含む水溶性ビ タミンを補わなければならない。 販売されている総合ビ タミン剤は避けるべきである。というのは、必要とされ るビタミンが含まれているとは限らないし、 含まれてい るビタミンが透析患者にとって適切な量ではなく、 ビタ ミンA、ビタミンE、ビタミンKやミネラルが含まれて いる可能性もあり、これらは透析患者にとって有害とな りうるからである。
  • カルシウム、リン、PTH 値に応じて、カルシウム製剤や ビタミンD 製剤を補う必要がある。
  • 透析患者は、禁煙や適正体重維持、規則的な運動、節酒 等、生活習慣を変えなければならない。
慢性腎臓病において、原因疾患の治療は慢性腎臓病の進 行を遅らせる

どんな時に透析患者は看護師や医師にかからなければな らないのでしょうか?

透析患者が医師や透析専門の看護師に至急連絡を取らな ければならない時は次の通りです:

  • シャント部あるいはカテーテル部からの出血がみられ た時
  • シャント部のスリルやシャント音が聞こえなくなった 時
  • 過剰な体重減少、著明な浮腫、息切れ等が生じた時
  • 胸痛、徐脈あるいは頻脈がみられた場合
  • 著明な高血圧、低血圧がみられた場合
  • 意識障害が生じた場合
  • 発熱、悪寒、嘔吐、吐血あるいは強い倦怠感が生じた時

腹膜透析

腹膜透析(Peritoneal dialysis(PD))は、末期腎不全の患 者さんに対する透析療法の一種で、広く受け入れられた効 果的な方法です。在宅透析の方法として最も普及していま す。

腹膜透析とは何ですか?

  • 腹膜とは、 胃や腸などの腹部臓器が収まっている腹腔と いうスペースを覆って、それらの臓器を支えている膜の ことである。
  • 腹膜は、自然の半透膜で、血液中の老廃物や毒素を通す ことができる。
  • 腹膜透析は腹膜を通して血液をきれいにする過程こと である。
慢性腎臓病は治癒しないが、早期治療によってもっとも 効果が見込める

腹膜透析にはどのような種類がありますか?
腹膜透析の種類:

  1. 間 欠 的 腹 膜 透 析 (Intermittent Peritoneal Dialysis(IPD))
  2. 連 続 携 行 式 腹 膜 透 析 (Continuous Ambulatory Peritoneal Dialysis(CAPD))
  3. 連続周期的腹膜透析(Continuous Cycling Peritoneal Dialysis(CCPD))

1. 間 欠 的 腹 膜 透 析 (Intermittent Peritoneal Dialysis(IPD))

間欠的腹膜透析は、入院中に短期間行う透析に有効です。 急性腎不全や、小児、末期腎不全における緊急時によく用 いられます。

  • 樹脂製の、 複数の穴が開いた特殊な細い管の先をお腹の 中に入れて、そこに透析液とよばれる特殊な液体を出し 入れして透析が行われる。
  • IPDでは24~36時間で透析液を30~40L用いる。
  • IPDは必要に応じて、~3 日という短い間隔を置いて繰 り返す。
慢性腎臓病において、原因疾患の治療は慢性腎臓病の進 行を遅らせる

1. 連 続 携 行 式 腹 膜 透 析 (Continuous Ambulatory Peritoneal Dialysis(CAPD))

CAPDとは何でしょうか?

CAPDとは以下の頭文字をとったものです。

C(Continuous連続): 毎日24 時間連続して、

A(Ambulatory 携行式): 歩き回ったり、日常生活を行いな がら、

P(Peritoneal membrane腹膜): 腹膜をフィルターとして、

D(Dyalysis透析): 血液を浄化する方法

CAPDは機械を用いずに自宅で行える透析療法です。 便利で 自分で行えるため、先進国で好まれています。

CAPDの過程

CAPD カテーテル:CAPD カテーテルと呼ばれる、多数の側 孔を持つシリコン樹脂製の柔らかいチューブを用います。 このカテーテルを手術でお腹の中に埋め込み、長期的に腹 膜透析に用います。通常、カテーテルのお腹への入り口は、 へその横から約2.5cmほど下になります。治療開始の約10 ~14 日前に埋め込み術が行われます。血液透析での内シャ ントと同様、カテーテルは腹膜透析患者にとって命綱です。

CAPDの実際の手順:

CAPDの実際の手順は次の3段階からなります:腹膜透析液 の注入、貯留、排液

注入: 2Lの透析液をバックから腹腔に留置したカテーテル を通じてお腹の中に入れます。お腹の中に入った透析液は.

Kidney in Japanese

腹膜と接します。お腹の中に透析液が入れば空のバックは 次の治療までぐるぐる巻きにして下着の中に入れておき ます。

腹膜と接します。お腹の中に透析液が入れば空のバックは

次の治療までぐるぐる巻きにして下着の中に入れておき ます。

貯留: 日中は平均4~6時間、夜間は6~8時間透析液をお 腹の中に貯留しておきます。透析液をお腹の中に貯留して おく時間を貯留時間とよびます。貯留時間の間に透析が行 われます。腹膜はフィルターとして働き余分な老廃物や水 分が血中から透析液側に移動します。貯留中は患者さんは 自由に動き回ることは可能です。

排液: 貯留時間が終了すると老廃物を含んだ透析液は (ぐ るぐる巻きにして患者さんの下着の中に入れておいた) 空のバックにカテーテルを通じて排液します。排液した透 析液をためたバックは重さを量ったあとに捨てます。排液 した透析液の色は通常であれば透明です。

腹腔から透析液を排液した後、新しい透析液を腹腔内に入 れますがこの一連の操作には約 30~40 分かかります。こ の透析液を排液し注液する過程は交換と呼ばれます。透析 液の交換は 1 日 3~5 回程度行われそのうち 1 回は夜間に 行います。夜間の交換は就寝前に行い透析液は一晩中腹腔 内に貯留されます。 CAPDの交換の過程では菌が入らないよ うに気をつけて行う必要があります。

2. APD・CCPD
APD(Automated peritoneal dialysis:自動腹膜透析)や CCPD(continuous cycling peritoneal dialysis:

持続性 周期的腹膜透析)は自宅で連日APDサイクラー(自動腹膜還 流装置)を使用して行われる持続的透析療法です。 APDの間 はサイクラーが腹膜透析液をお腹に自動的に注排液しま す。各サイクルは通常は1~2 時間程度で4~5回の交換が 行われます。APD は患者が睡眠中に(通常は夜間に)8~10 時間かけて行われます。通常は腹腔内に2~3L腹膜透析液 が残った状態で朝サイクラーを外します。透析液は日中は 腹腔内に貯留しており夕方や夜間にサイクラーを接続す る際に排液されます。APD のメリットは日中に透析液の交 換をしないですむことで自由で快適であることと 24 時間 で1回しかサイクラーとの接続や切り離しの過程がないこ とで腹膜炎のリスクが減ることです。APD のデメリットは 高価であることと複雑であることです。

  • CAPDで使用する腹膜透析液とは?

腹膜透析液とは腹膜透析で使用する透析液です。ブドウ 糖・ミネラルが豊富に含まれており、無菌状態になってい ます。日本ではブドウ糖の濃度が違う3 種類(1.5%、2.5%、 4.0%)があります。腹膜透析液中のブドウ糖の作用により 体から水分が除去されます。ブドウ糖濃度が高いほど除去

できる水分の量が多く、使用する患者さんの状態に応じて 適したものが選ばれます。

近年においてはブドウ糖の代わりにイコデキストリンが 含まれた新たな腹膜透析液が使用できるようになってお り、これは長時間にわたり除水が可能となっています。糖 尿病の方や、肥満の強い方で1 日1 度しか使えない場合に は、この新しい腹膜透析液を使用することが推奨されてい ます。

腹膜透析液の容量に関しては1000ml から2500ml までの物 が用意されています。

  • CAPDの合併症とは?

CAPDの主な合併症は次の通りです。

感染症:
CAPDを行っている方で最も一般的で、 深刻な問題は腹膜炎 です。腹膜炎は腹膜の感染症で、腹痛・発熱・悪寒・腹膜 透析排液の混濁といった症状を引き起こします。腹膜炎を 予防するためには、しっかりとした清潔操作を行うことや、 便秘を避けることが大切です。

腹膜炎の治療方法としては、多くの細菌に効果のある抗生 剤を投与すること、原因となった細菌を調べるために腹膜

透析排液の培養検査を行うことが必要です。また、一部の 患者さんでは腹膜透析カテーテルを除去しなければなら ない場合もあります。また、感染症はカテーテルが入って いる出口部分から進行してくる場合もあります。

その他の問題点:
腹部膨張、腹筋の脆弱性にともなうヘルニア、体液量の過 剰、陰嚢水腫、便秘、
背部痛、腹膜透析液の排液不良、液漏れ、体重の増加など があります。

  • CAPDの利点
  • 食事制限、飲水制限が多少緩和されます。
  • 腹膜透析は自宅、職場、旅行先を問わずに行えます。ま た、腹膜透析を行っている間も、普段行っていることは 普段通りに行えるので自由を制限されません。さらに、 腹膜透析は自身で行え、機械や、病院スタッフ、家族の 手助けが要りません。
  • 血液透析と異なり週3 回の通院や、 痛い穿刺は必要あり ません。
  • 高血圧、貧血の管理がよりよくなります。
  • 持続的な透析のため体内環境の変化が穏やかで、 浮き沈 みや、不快感がありません。

  • CAPDの欠点
  • 腹膜炎や出口部の感染の危険性があります。
  • CAPD 患者は 365 日毎日 3~5 回、注意深くバッグ交換を する必要があります。
  • 腹膜透析カテーテルが体外へ出ていることやおなかに 液体を入れることが不便に感じられます。一部の患者は 見た目が受け入れがたいかもしれません。
  • 重い透析液のバッグを自宅に保存し扱わないといけま せん。

CAPD患者の食事はどう変えるべきか?

CAPD患者の食事指導は重要ですが、血液透析患者とは少し 異なります。

  • 腹膜透析では持続的にタンパク質を喪失することによ るタンパク質不足を避けるため、高蛋白食を摂る必要が あります。
  • 太るのをさけるため、カロリー制限が必要です。透析液 にはブドウ糖が含まれており、CAPD 患者は持続的に炭 水化物を摂取することになります。
  • 血液透析患者と比較すると塩分・水分制限は緩いです。
  • カリウムやリンが豊富な食事は避けないといけません。
  • 便秘にならないよう食物繊維は多く摂る必要がありま す。
CAPD患者が医師・看護師に連絡しないといけない時とは?

CAPD 患者は次のような場合速やかに医師・看護師に連絡し ないといけません:

  • 腹痛、発熱、悪寒
  • 腹膜透析排液が濁っている時や血が混じっている時
  • 腹膜透析カテーテル出口部の痛み、膿汁、赤み、腫脹、 熱感がある時
  • 排液も注液もできなくなってしまった時
  • 思わぬ体重増加、ひどいむくみ、息苦しさ、著明な高血 圧の時
  • 血圧が低い、体重減少、こむら返り、 倦怠感がある時 (透 析ができていない可能性があります。)